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マイルドセブン・ヒーロー
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「喫煙は、あなたにとって肺気腫を悪化させる危険性を高めます」。

近頃、タバコのパッケージが変わってきた。
次々と撤去される喫煙所。
タバコの箱に書かれた、少し過激な警告文。
愛煙家にとって、肩身のせまい世の中になってきた。

私の父も、私が物心ついた頃から、煙草を吸っていた。
マイルドセブンの思い出は、いつも小学校の時の記憶を呼び覚ます。



―「ウチの倅に何しやがる!」
いつもの帰り道。突然私の目の前に現れ、
自転車から飛び降りた父は、上級生に向かってそう怒鳴りつけた。

父は、今では珍しいくらいの「頑固親父」だ。
中学を卒業してから働き続け、ひとりの兄と私をしっかりと
学校に通わせ、最近では新築の家を建てた。

そんな父が、まだ幼かった私に何度も言っていたことがひとつだけあった。

「男なら、やられたらやりかえせ」。


身長は前から数えた方が早かった私は、決してケンカの強い人間ではなかった。
しかし、小学校2年生から地元の少年野球のチームに入り、
なんとか体力をつけようとしていた。
そのせいもあってか、私はよく外で遊ぶ子供だった。
学校が終わり、家にランドセルを置くとすぐに、数人の友達と
自転車にまたがり、近所の秘密基地へと遊びに出かけていた。

その秘密基地は、古くなった自動車の廃棄所の中に捨てられた
一台のマイクロバスにあった。
雨に打たれ、変色したシート。
誰が持ってきたのかはわからない、自動車の部品やラジカセ。
小学生の私にとって、すべてが宝物であった。


いつものように私は学校が終わると急いで教科書をランドセルにつめ、
教室の扉を力強く開いた。
いつもの通学路を友人と走りながら帰っていると、突然草むらの
中から
体格のいい、数人の小学生が飛び出してきた。

「ちょっと待てよ」。
私は瞬時に相手が誰であるか理解した。


―上級生だ。
小学生にとって、生まれてきた年がひとつ違うということは、
とてつもなく、大きな差であった。
小学2年生の私にとって、その相手はあまりにも強大すぎた。
どうやら相手は、私たちが最近見つけたあの秘密基地が
気に入らないらしく、2年のくせに生意気だといちゃもんをつけてきたのだ。


その日は、誰も秘密基地に集まることはなかった。




体中泥だらけになって帰宅した私を見て、母親は慌てて着替えを取りにいった。

「お父さんには言わないで」。
私は泣きながら母にそう訴えた。
やりかえすことも出来ず、泣きながら帰った私を、父はきっと叱るだろう。
幼いながらそんな事を考えて、その日は隠れるように布団にもぐりこんだ。


―次の日、またしても上級生が私たちを待ち伏せていた。
どうやら、彼らにとってもう秘密基地はどうでもいいらしく、
ただ私たちをいじめ、泣く姿を見ることに興味がうつったようだ。

一目散に逃げる私を、後ろから追いかけてくる上級生。
追いつかれたら殺される!そう感じた次の瞬間、私の足は
勢い良くからまった。

鈍い痛みが膝から頭へと上ってきたと同時に、次に何が
待ち構えているかを理解した私は、
涙がまぶたから零れ落ちそうになった。

もうだめだ…!
そう思った次の瞬間、私の視界の前に、自転車の前輪が現れた。


マイルドセブンを自転車のカゴに入れ、降り立った父の表情は、
夕焼けの光に重なってよくわからなかった。

今度は上級生がフナ虫のように散っていった。
足の痛みと、大きい安心感に、私はまた泣きそうになった。
そんな私の姿を見て、父は煙草に火をつけて

「泣くんじゃない、次はやりかえせ」。

煙を吐きながら私に向かって言った。
ぐっと涙をこらえて、自転車の後ろにまたがった。
流れてくる煙と、大きい父の背中の体温を感じながら夕もやの通学路を走った。

家に到着し、母の顔を見るや否や、今まで我慢していたものが、
堰を切ったように流れ出し、
私は声をあげて泣いた。

そんな私の姿を見ながら、2本目の煙草に火をつけた父は、
「男は、人前で泣いたら負けだからな」。
そう言いながら、うっすらと微笑んでいるように見えた。



―私も大人になり、煙草を吸うようになった。
体に悪いことは百も承知だ。
それでも、どこか父に近づくために、私は煙草を吸っているのかもしれない。
けれども、マイルドセブンは吸わない。


煙草のパッケージは変わった。
父も、目に見えて老いが感じられるようになってきた。
だが、父が吸う煙草の銘柄と、マイルドセブンの思い出だけは、
今も変わらない。


―今回は、煙草の写真を見て考えた作文です。


客観的に見ると、おそらく長い。
小説ならいいけど、作文ならおそらくもっとコンパクトにまとめるべきですね。

重松清のおかげです。

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